【フランスに旅立った小野寺修二(おのでらん)がつづる「日々不条理日記」】 - 特集ページ - 演劇ポータルサイト/シアターガイド
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シアターガイド×アーティスト シリーズ vol2

フランスに旅立った小野寺修二(おのでらん)がつづる

日々不条理日記

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写真/2月某日...その1

食事を口実に密談に出かける。私は男と連れ添いレストランに入る。

店内にはたくさんの人が溢れかえっていて、奥しか空いている席はないようだった。薄暗い中に紫煙がくねり、若い男女が嬌声を上げている。無作法に椅子の背もたれが重なり、通路とよべる隙間はなかった。私は足を投げ出した視線をかい潜り、前に進む。

食事時だというのに男が一人、本を広げ座っている。その男と直角に面した席に座る。男と私たちの距離はただでさえ近いのに、男はしばしば無遠慮にこちらを見る。あまりに近くで場を共有しているので、3人で一つのテーブルを囲んでいるかのような気分になる。言葉が通じないだろうというその一点を拠り所に、他人のいる前で私たちは密談を始める。

私は本を読む男のことが気になって仕方がない。話の隙にちらちら見やる。男は、たいていは熱心に本に目を落としている。たいそうぶ厚い本を読んでいて、その小さな文字は私には判読が出来ない。だがしばらくすると、本のページがいつまでたっても繰られないことに感づく。男は本など読んでいないのだった。私は、あっと声を上げそうになる。

密談の相手にそのことを伝えようと思い、目を移す。だが相手はそのことに全く気付かず、上機嫌で話している。私はもどかしく思うも、為す術なくその場にいる。料理が次から次へ運ばれてきて、私はますます機会を逸する。「…なんですよ。」男はにこやかに話し続ける。私は仕方なく料理に手を伸ばす。ナイフを取ろうとして手が滑り、ガチャっと大きな音を立ててしまう。

気付くと、同行の男が激しく不機嫌になっている。よくよく見ると元とは違う形相である。右目だけ吊り上がり、口が微妙に大きくなっている。ナイフを投げ出し、手づかみで料理を食べだす。そのまま手を駆使して、のべつ料理を口に運ぶ。「だって…だもんね。」驚いたことに口調も違っている。男は食べることを止めない。みるみるうちに身体が膨らんでいくのが分かる。男は部屋一杯にどんどん広がっていく。遠くの方で男が私を呼ぶ声が聞こえた。彼のももが私の顔の直ぐ横にあり、私の頬を押しつぶす。ふと見ると、本を読む男は下を向いて必死で笑いを堪えている。

プロフィール

小野寺修二
(おのでら・しゅうじ)

小野寺修二プロフィール画像

北海道生まれ。学生時代から演劇活動を始める。

3年間の社会人生活を経た後、日本マイム研究所に入所。独自のマイムを目指して、95年に、同研究所で出会ったメンバーとともに「水と油」を結成。

メンバーそれぞれのキャラクターと、何気ないマイムのコンビネーションで断片的なシーンを重ね、ダンスのようなリ ズム感と喜劇のようなユーモアを合わせ持ったユニークな作風が、大きな反響を得る。創作過程では、主にシーンの物語部分を担当。

発表する新作が常に高い評価を得ていたが、06年3月に「水と油」の活動を休止。現在、文化庁の「新進芸術家海外留学制度」の支援を受け、フランス・パリで修行中。