【フランスに旅立った小野寺修二(おのでらん)がつづる「日々不条理日記」】 - 特集ページ - 演劇ポータルサイト/シアターガイド
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シアターガイド×アーティスト シリーズ vol2

フランスに旅立った小野寺修二(おのでらん)がつづる

日々不条理日記

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写真/3月某日...その1

メトロに乗る。

夕方の帰宅ラッシュで混み合う車内に、男が一人乗り込んでくる。おもむろに懐からギターを取り出し、座っている老人の鼻先数センチのところに掲げ歌いだす。歌声はじっと動かない無表情な老人の鼻腔から入り込み、ぐるりと回って行き渡る。周りを見ると人々がリズムを取っている。よく見るとそれは電車の揺れだった。人々は男の歌声を聞こえているとも聞こえていないとも分からない無関心さでやり過ごす。退屈な日常に突如飛び込んだ異分子を扱いあぐねているようだ。もしかしたら空気は少し固くなったかもしれない、と思った。

歌が終わる。拍手があるわけでもなくないわけでもない中、男は帽子を手に座席を回る。私は少し哀しいような気持ちでそれを見る。突然手がにゅるりと伸びてきた。ぼとっと硬貨が落ちる。続いてまた違う手が伸びる。複数の手が男のまわりを取り囲む。だが男はそんなことお構いなしにすたすた車内を進む。男の後ろを何本も手だけが追いかける。もたもたしていると男は通り過ぎてしまうのだ。人々は密かにずっと握り締めていたとしか思えない俊敏さで、機を見て帽子に硬貨を投げ込む。私も男に金を渡したい。だが、私が財布に手をかけている間に、男は電車を降りてしまう。何事もなかったかのように電車は発車する。

気付くと、私の降りるべき駅はとうに過ぎてしまっている。

プロフィール

小野寺修二
(おのでら・しゅうじ)

小野寺修二プロフィール画像

北海道生まれ。学生時代から演劇活動を始める。

3年間の社会人生活を経た後、日本マイム研究所に入所。独自のマイムを目指して、95年に、同研究所で出会ったメンバーとともに「水と油」を結成。

メンバーそれぞれのキャラクターと、何気ないマイムのコンビネーションで断片的なシーンを重ね、ダンスのようなリ ズム感と喜劇のようなユーモアを合わせ持ったユニークな作風が、大きな反響を得る。創作過程では、主にシーンの物語部分を担当。

発表する新作が常に高い評価を得ていたが、06年3月に「水と油」の活動を休止。現在、文化庁の「新進芸術家海外留学制度」の支援を受け、フランス・パリで修行中。