【フランスに旅立った小野寺修二(おのでらん)がつづる「日々不条理日記」】 - 特集ページ - 演劇ポータルサイト/シアターガイド
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シアターガイド×アーティスト シリーズ vol2

フランスに旅立った小野寺修二(おのでらん)がつづる

日々不条理日記

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写真/4月某日...その1

友人がカフェで古い文庫本を見せてくれる。彼はそれをヒントにある計画をたてていると言う。幾つかのアイディアを聞き感心し、以前その本を読んだ時の記憶を探る。ふと横を見ると、うすら笑みを浮かべて男が立っていた。男は我々のテーブルに次の物を並べる。腕時計、茶色い染みのついたコースター、ライター。全てが男の身なり同様みすぼらしい。

友人がNon!と言う。だが男は意に介することなく腕時計をせわしなく振り、それを耳に近づけこちらを見る。神妙な顔でさかんにうなづいているが、その秒針は止まったままだ。

おもむろに机上のペンを取り上げる。私のものである。それをこちらの鼻先すぐに掲げ、ぷらぷら揺らす。あまりに近過ぎて焦点があわない。ペン越しに男を見る。男の顔からは何の意思も読み取れない。ちょっとやばいなと思う。男が突然ひゃーと奇声をあげ私の目玉を突き刺すまでに、0.1秒とかからないはずだ。何もおこらない時間が過ぎる。

男は不意にその動作を止め、次に本を取る。友人の本だ。興味なさそうに中を一瞥するとこちらに向き直り、ページを親指でしごきながら、どう?と言う。その本に対してだろうか。そのパフォーマンスに対してだろうか。とにかく彼との距離が近いので、余計な刺激は避けなければと思う。ゆっくりと恐怖がにじみよる。何度目かの捲りが失敗しぱたんと本が閉まる。その隙に本を取り返す。

男は熱中していた割に何の頓着も見せず、また気まずさも一切感じさせない優雅さで、ゆっくりと上着のポケットに自分のものを仕舞い始める。ポケットには他にも何か入っているようだ。わずかに膨らみが分かる。始終私たちをなめるように見ながらゆったりと動く。顔にはにやけた笑いが張り付いている。

そして最後、私のペンを手に取るとその時突然顔の表情がのっぺらぼうに挿(す)げ変わる。ペンはポケットにしまわれ、あれよあれよという間に店の外に消えていった。呆然と取り残される。

ペン泥棒だったのだろうか。友人は自国で起きた軽い犯罪を詫びる。どうせ量産品の安物なのだ。私はどこから男の世界に飲み込まれてしまったのかを考える。

床を見ると男の走り去った後にくしゃくしゃの5ユーロ札が落ちている。

プロフィール

小野寺修二
(おのでら・しゅうじ)

小野寺修二プロフィール画像

北海道生まれ。学生時代から演劇活動を始める。

3年間の社会人生活を経た後、日本マイム研究所に入所。独自のマイムを目指して、95年に、同研究所で出会ったメンバーとともに「水と油」を結成。

メンバーそれぞれのキャラクターと、何気ないマイムのコンビネーションで断片的なシーンを重ね、ダンスのようなリ ズム感と喜劇のようなユーモアを合わせ持ったユニークな作風が、大きな反響を得る。創作過程では、主にシーンの物語部分を担当。

発表する新作が常に高い評価を得ていたが、06年3月に「水と油」の活動を休止。現在、文化庁の「新進芸術家海外留学制度」の支援を受け、フランス・パリで修行中。