【フランスに旅立った小野寺修二(おのでらん)がつづる「日々不条理日記」】 - 特集ページ - 演劇ポータルサイト/シアターガイド
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シアターガイド×アーティスト シリーズ vol2

フランスに旅立った小野寺修二(おのでらん)がつづる

日々不条理日記

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写真/6月某日...その3

用件を済まし時計を見ると、かなり遅い時間になっている。腹が減っているが、家で作るには少し迷惑な時間だ。行きつけの中華料理店に行く。静まり返った路地を曲がると、一件だけ明かりが見える。店を覗くとそんな時刻にもかかわらず、沢山の人が食事をしていた。満席である。

諦め帰ろうとすると店の主人が出て来て「どうぞ、どうぞ」と言う。そして既に食事をしている人々のテーブル端に無理やり椅子を置き、座れと言う。そのテーブルでは小さな男の子を連れた男女が食事をしている。戸惑っていると彼らも「どうぞ、どうぞ」と笑って言うので、何とも居心地悪い状態の中、席に着き注文をする。

彼らはいくつかの皿を分け合いながら滑舌良く会話をしている。私が座ると、異国の人間が珍しいのか幾つか質問をしてきた。程なく、私の頼んだ料理が運ばれてくる。店内にはいろいろな国の言葉が飛び交っている。人はますます増えている様だ。それを耳に料理を食べ始める。

ふと気付くと、小さな手が私の皿に伸びている。男の子が私の皿から料理を取って食べているのだ。彼にとっては私の皿もシェアされるべき皿なのだろう。あまりに自然な行為だったので、私もあやうく見過す所だった。私の皿は彼の好みにあったらしく、無心に食べ続けている。

突然、彼の頭に鉄槌が落ちる。彼は一瞬の後、大声で泣き出した。辺りは水を打った様に静まりかえる。全ての視線が私たちのテーブルに集まった。私は戸惑いながらも周りに愛想笑いをする。と、沈黙を破る様に男が立ち上がり、そして恐ろしい声で何かを叫ぶ。私には何を言ったのか分からなかった。

しかし店内はそれを契機にゆっくりと元の状態に戻っていった。男は席に着き女と視線をかわすと、私に向かって驚くべき笑顔を向ける。私は呆然と頷く。すると目の前に私が頼んだ料理と同じものが置かれた。叫んだのはこの料理だったのだ。私はこの気まずい状態から逃れたかった。第一、私の皿はもうほとんど食べ終わっていたのだ。丁寧に断ろうとすると、自分たちの食べかけの皿も差し出し、「どうぞ。どうぞ」と言う。沢山の料理に囲まれて、私の気まずさは頂点になる。

プロフィール

小野寺修二
(おのでら・しゅうじ)

小野寺修二プロフィール画像

北海道生まれ。学生時代から演劇活動を始める。

3年間の社会人生活を経た後、日本マイム研究所に入所。独自のマイムを目指して、95年に、同研究所で出会ったメンバーとともに「水と油」を結成。

メンバーそれぞれのキャラクターと、何気ないマイムのコンビネーションで断片的なシーンを重ね、ダンスのようなリ ズム感と喜劇のようなユーモアを合わせ持ったユニークな作風が、大きな反響を得る。創作過程では、主にシーンの物語部分を担当。

発表する新作が常に高い評価を得ていたが、06年3月に「水と油」の活動を休止。現在、文化庁の「新進芸術家海外留学制度」の支援を受け、フランス・パリで修行中。