東京芸術劇場「芸劇eyes」演出家インタヴュー
野田秀樹芸術監督の下、09年夏より新体制でスタートした東京芸術劇場。同劇場が注目する若き才能たちを紹介するシリーズが「芸劇eyes」だ。ハイバイ(9・10月)、五反田団(10月)、グリング(12月)、冨士山アネット(2010年1月)、モダンスイマーズ(2月)と、飛ぶ鳥落とす勢いの小劇場5団体が小ホール1に連続して登場。そこでシアターガイド ホームページでは、気になる演出家たちの単独インタビューを短期連載する。
取材・文=熊井玲(シアターガイド)

芸劇eyes参加5団体のトリを飾るのは、劇作・演出家として多方面で活躍中の蓬莱竜太を擁するモダンスイマーズだ。昨年、劇団創立10周年を迎え、劇団としても今まさに勢いに乗っている彼ら。今回は、08年にOFF・OFFシアターで1カ月間上演され好評を博した『夜光ホテル』をもとに新たな登場人物を交えた新作『凡骨タウン』を送る。
Page.2【社会を見つめ直す。人を描くとはそういうこと。】
◎『凡骨タウン』については、早い段階から構想を考えていらっしゃったんですか?
そうですね。『夜光ホテル』本番の折り返しくらいだったかな、「これは“次”ということが存在するんじゃないか」って意識になって。
◎今回の舞台はホテルではなく?
日暮里の街です。
◎萩原聖人さんに加えて、緒川たまきさん、千葉哲也さんとキャストの顔ぶれも豪華ですね。
そうですね。『夜光ホテル』が同世代の男だけの芝居だったので、彼らとはまた違う、ある意味似つかわしくない人に出演していただきたくて。緒川さんは以前からご一緒したい方だったんですけど、特に今回、彼らと一緒の舞台に立つと面白いんじゃないかなって。千葉さんは……早乙女役って誰だろう?と思ったら直感的に千葉さんだなって(笑)。
あと、『夜光ホテル』は早乙女VS八鴉という関係性を八鴉側の視点で描いた話だったんですけど、『凡骨タウン』では早乙女側の視点からも描きたいと思ってて。萩原さん演じるけんちゃんが八鴉との決別を決意するところで『夜光ホテル』は終わっていますが、じゃあけんちゃんはあの後、実際にどういう行動をとり、どう闘って八鴉や早乙女と決別したのだろうか。また、早乙女はそういうけんちゃんの苦しみを、一体どう見ていたのだろうか。それを僕も知りたい。
そもそも『夜光ホテル』のテーマは、先天的なことに対して、人はどう抗えるかということだったんです。性別、境遇、容姿の美しさとかっていう先天的な要素がそれぞれあって、考えてみれば性格もそういった先天的な環境で形成されるものだから、その人の人間性ってある意味始めから決まっているのではないだろうか。また、例えば自分の顔や境遇が突然隣の人とそっくり入れ替わってしまったら、自分は隣の人と同じ生き方をするのか、それとも努力して違う生き方をするんだろうか。でも努力する・しないも先天的に決まるなら、人の優劣とか差別とか、そういうことにどこまで自分自身の力で抗えるものだろうか━━。ちょっと運命論的ですごく難しいテーマなんですけど、そう考えていくと “他人がすべて自分であり得るのではないか、誰も他人を否定することはできないんじゃないか”とも思うんです。今回はそこに挑戦してみたい。ある意味、登場人物から学びたいって気持ちがあるのかもしれませんね。
◎今回も本番に入ってから変化がありそうですか?
どうですかね。劇場に合った芝居をつくりたい、という想いがあって、今回は東京芸術劇場 小ホール1と空間が広いですから、『夜光ホテル』のような一幕ものでオンタイムで進んでいくものとは違うものにしようって思ってるんですよ。視覚的なこととか、エンターテインメント性っていうのも、今回は演出家として目指さなきゃいけないなと思っていて。舞台が大きくなったぶん、違うスパイスっていうか、違う挑戦をしなくちゃいけない。だから『夜光ホテル』の時は役者と一緒にスタートラインに立って一緒につくっていった感じですけど、今回はある程度僕の中で、彼らを確信的にどう誘導していくかをいろいろ決めて、シーンの見せ方や構成などお客さんを飽きさせないように、エンターテインメント性も意識しながらテーマに近づきたいなと思っていて。多分『夜光ホテル』とはタイプが違ってくると思いますよ。
◎劇場に合った作品づくり、という点について、ちょっと話がそれますが、09年3月にTHEATER/TOPS閉館イベントとして開かれた演出家たちによるトークショーで、蓬莱さんが小劇場で育った一人として、劇場がひとつなくなることについて憤っていらっしゃったのが、とても印象深かったです。
ははは(笑)。いや、僕はただ「劇場がなくなって寂しいね」だけじゃだめだと思っていて。政権も変わって、これからもっと厳しい時代になってくるかもしれない、でもだからこそ芝居が必要だという考え方なので、劇場という表現の場がなくなっていくことで、実はそこで生まれるかもしれなかったいろんな才能の芽を摘んでいるんだってことを、もっと考えなきゃいけないと思うんです。やっぱり僕は、小劇場出身ですから。
◎そして、劇作家としては、09年に『まほろば』で岸田國士戯曲賞を獲られました。それによって周囲やご自身の心境に変化はありましたか?
いや、ほとんど実感としてはありません。何か感じられたほうが楽しそうなんですけど(笑)。来る仕事の内容が飛躍的に変わったということもないですし。でも受賞して、岸田戯曲賞のことがもうちらつかなくなったのはいいことですね。やっぱり年末になって岸田戯曲賞の候補が出るころになると、周囲に言われてたんですよね(笑)。若干そういうことに対する煩わしさがあったので、そこを考えずに済むのはいいなって。
◎『夜光ホテル』でも、“グループから外に出たい”とか“自立”ということを感じさせるようなせりふがありますね。劇団代表作である『赤木五兄弟』のように、男同士の密な人間関係は蓬莱作品のひとつの特徴ですが、そういった部分も今後は変化が出てくるのでしょうか?
そうですね。今回の『凡骨タウン』でもそのあたりが出てくると思います。今回、自分が大きな結論に至れるかどうかは分かりませんけど、これまでの活動にひとつ終止符を打って、次からはもっとどんどん違うことがテーマになってくるだろうと思うんです。例えば毎日いろんな事件が起こっているけれど、じゃあなぜ殺人が起こるのか、といったことをあらためて考えていく。社会的な芝居をやるつもりはまったくないんですけど、でも人を描くっていうのは結局そういうことになってくると思うんですよね。
そう思い始めたのは、特別なきっかけがあったからというより、だんだんと興味の対象が変わってきたからだと思います。例えば政権交代が起こって、たった数カ月で内閣支持率が変わったり、あるいは殺人事件の容疑者に大衆が妙な関心を示したり。それによって大衆の怖さや不思議さを感じたり、また世の中は非常にシンプルなことで成り立っていうことを発見したり。そういう時代の中で作家として何を描くかというと、演劇は非常にミクロなものですから、いったん社会という大きな場に潜って、その上で自分の世界を展開していく必要がある。演劇というミクロなものと社会というマクロなもの、その融合をどうしていくかというのが、これからの大きなテーマになってくると思います。
蓬莱竜太(ほうらい・りゅうた)
76年石川県出身。高校より演劇を始め、上京後、舞台芸術学院演劇科に入学。同窓の西條義将と劇団モダンスイマーズを旗揚げし、作・演出を手掛ける。劇団外への書き下ろしも多く、主な作品に『世界の中心で、愛をさけぶ』(05年)、『東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜』(07年)など。『まほろば』(08年、栗山民也演出)で岸田國士戯曲賞を受賞。3月にSPACE雑遊でアル☆カンパニーへの書き下ろし作『罪』を上演。









