イキウメ「前川知大 インタビュー」  - 特集ページ - 演劇ポータルサイト/シアターガイド
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新作『表と裏と、その向こう』イキウメ 作・演出 前川知大 インタビュー

われわれが普段、なんの疑問も持たずに信じ、受け入れている「常識」の数々。そこに大きく揺さぶりをかけ、足下の危うさや生きていることへの自覚をじりじりと促す劇作・演出家の前川知大。身体いっぱいに追い風を受け、いまや小劇場界屈指の人気劇作家となった彼が、新作「表と裏と、その向う」(日本劇団協議会 創作劇奨励公演)で紀伊國屋ホールに初進出する。 今年創立5周年を迎えたイキウメにとって、大きな挑戦となる今回。劇団としての結束力と、プロとしての自覚を新たにした彼らは、今まさに、変革と飛躍の時を迎えている。
取材・文=熊井玲(本誌)

新たなる挑戦を経て

写真/『散歩する侵略者』再演(07年/青山円形劇場)より 撮影=田中亜紀

▲『散歩する侵略者』再演(07年/青山円形劇場)より
撮影=田中亜紀

―昨年9月に上演された代表作『散歩する侵略者』再演辺りから、多数のプロデュース公演への脚本提供、小説家デビューと、ご活躍が続いていますね。

とにかく忙しかったです(笑)。劇団だけでやっていたところに別の仕事が入ってくる、そのペースにこのごろようやく僕の身体が慣れてきて、体力がついたかなというところです。

僕はじっくり作り込んでいく方。自分の中の混沌としたものからやりたいことが見えてくるのって、けっこう後だったりするんです。公演が終わって1カ月くらい経ってから、台本を読み直したりビデオの編集をした時に、ある種客観的に解釈できて、ああ俺はこういうことが言いたかったんだ、と分かったりすることもあるくらい。これまでの経験だと、最初は自分でもよく分からない作品の方が、荒削りだけど勢いがあって面白かったりするので、劇団ではわがままを通して、できるだけみんなに待ってもらいます。劇団はやっぱり僕の根っこ。一番好きなことができる場所だからこそ、面白いものがでてくるまで時間をかけます。

でもプロデュース公演では、どうしてもまず形にしないといけない。「何を書きたいの?」って言われた時に説明できない、というのは通じません。作る側としてはそこが厳しいんですが、そのぶん早い段階から推敲できるので、台本自体の完成度はすごく高くなります。チーム申の『抜け穴の会議室』は、一回イキウメでやった『輪廻TM』という作品をもとにしているので、プロデューサーたちと話を詰めやすく、『輪廻〜』より設定や登場人物像がぐっと膨らんだので、作品全体の完成度が断然上がった。もちろんどちらがいいということではなく、それぞれの仕事の良さがありますね。

写真/小説「散歩する侵略者」(税込1,400円/メディアファクトリー刊)

▲小説「散歩する侵略者」(税込1,400円/メディアファクトリー刊)

―さらに雑誌連載で『散歩する〜』の小説化に取り組み、小説の執筆も経験されました。

編集者が優しかったのか、あまり何も言われなくて、褒めて伸ばされた感じです(笑)。最初はすごくびくびくして、よく分からないと思いながら原稿を送ったら、「思ったよりよかったですよ、ちゃんと小説です!」って(笑)。小説を書いて気付いたんですけど、僕の書いてるものは戯曲より小説の方が書きやすいんだなと。僕の中では小説を書くのって、映画の編集をやっているような感じなんです。例えば演劇だと登場人物が自分でなんでも語らざるを得ないところを、映画だと一個の「絵」で表現できる。すらすら進んでいたペン先が一瞬止まった、その指先にフォーカスした映像をぱっと入れれば、登場人物に心の変化があったことはなんとなく伝わりますよね。演劇だと言葉で表現するところを、小説は映画みたいに描写すればいいんだ、とある時思って、そこから映画の感覚で小説を書いていったんです。そうしたら編集の方に“コツをつかみましたね、小説っていうのはそういうことです”と言われて、僕も“分かりました! なのでもう一度連載のはじめから全部書き直したいんですけど”と(笑)。

「プロ」として

写真/前川知大

―今年から、劇団主宰も前川さんが兼任することになりました。改めて、劇団に対する意識の変化はありましたか?

もともと前の主宰と僕とで始めたような劇団ですが、彼は前回の公演が終わって別の仕事を始めたんです。昔から主宰が何でも決めるんじゃなく、なるべくいろんなことをみんなで集まって決めようという劇団なんですが、その中で最近特に、プロとしての自覚をもってやっていこうぜっていう意識が高まってきました。ずっとサンモールスタジオでやっていたのが、吉祥寺シアター、青山円形劇場と劇場が大きくなるにつれて、小劇場で通用した“なり(態)”が伝わらなくなり、見え方見せ方をちゃんと考えなくちゃいけなくなってきて。

また、以前は7、8割がもとから知り合いの“顔が見えるお客さん”だったんですけど、徐々に“顔が見えないお客さん”に変わってきました。そういったお客さんに対して、どんなパフォーマンスが観せられるのか。「今回も楽しかったね!」という役者個人の充実さとは関係ないところで、どういう見せ方ができるのかを、改めて考え直しています。自然発生的な劇団ってそうだと思うんですが、なんとなくでやってきた時間が長いんです。でも今後はもっと、台本への向かい方、身体の使い方ということをちゃんと考え直さなきゃいけないと思います。

―そして今回は紀伊國屋ホールです。これまでに比べるとサイズも大きいですし、紀伊國屋ホールという劇場のブランドもあります。

お話をいただいた時にありがたい反面、正直考えました。「ちょっと背伸びしちゃったんじゃないの?」ってことになったらイタいし(笑)。でもそれと紙一重に、僕らもなんとか紀伊國屋ホールでやり遂げたねってなったら、みんなもっと可能性が増えるとも思うんで。だから今回、役者についてだけじゃなく、演出や舞台美術の面でもどう見えるかをかなり意識して作っています。僕の作品はなかなか全体像が見えないと言われがちなので、シーンごとの「絵」を分かりやすい形で示しながら,お客さんをうまく物語の中に誘導していきたいなと。あと、今回は殺陣を入れてみたかったというのがあって。ボクシングのシーンがあるんですけど、実際に殺陣の指導の人に来てもらって、いろいろステージングを考えました。それは、僕としては新しい試みのひとつですね。