イキウメ「前川知大 インタビュー」  - 特集ページ - 演劇ポータルサイト/シアターガイド
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新作『表と裏と、その向こう』イキウメ 作・演出 前川知大 インタビュー

われわれが普段、なんの疑問も持たずに信じ、受け入れている「常識」の数々。そこに大きく揺さぶりをかけ、足下の危うさや生きていることへの自覚をじりじりと促す劇作・演出家の前川知大。身体いっぱいに追い風を受け、いまや小劇場界屈指の人気劇作家となった彼が、新作「表と裏と、その向う」(日本劇団協議会 創作劇奨励公演)で紀伊國屋ホールに初進出する。 今年創立5周年を迎えたイキウメにとって、大きな挑戦となる今回。劇団としての結束力と、プロとしての自覚を新たにした彼らは、今まさに、変革と飛躍の時を迎えている。
取材・文=熊井玲(本誌)

時間を売る、時間を延ばす

写真/新作『表と裏と、その向こう』の稽古風景

▲新作『表と裏と、その向こう』の稽古風景

―今回は「時間」がひとつのキーワードになるそうですが、どういった作品になるのでしょうか。

最初から何か大きなテーマがあったわけではなく、短編集くらいにしか使えないかなと思っていた「時間を売る」という設定がありまして。そこからタイの臓器売買問題とか、ユビキタス特区(*1)におけるプライバシーと情報管理の問題へとイメージが広がって。でも、そこに偏りすぎて、単なる社会正義を問う話にするのはつまらない。そこでもう一度「時間」ということに立ち返ってみると、時間てすごく主観的だと思い始めて。

よく「楽しい時間は早く過ぎる」って言いますけど、例えば楽しい1時間とつまらない10時間を比較した時に、楽しい1時間が30分にしか感じられなかったとしても、その時間の密度はものすごく濃いですよね。とすれば、体感としては短くても、その1時間って実は(つまらない1時間より)長いんじゃないかと思うんです。禅の考え方にも、一瞬に織り込まれた無限を制したものが勝つ、といった思想がありますが、ずっと空手をやってるうちの兄貴にこの話をしたら、武道家はよくそういう話をするよって言われて。しかも、1秒が100年になるっていう、かなりぶっ飛んだ感じで(笑)。そこから「時間を延ばす」というもう一つの設定が浮かび上がりました。

で、そういう考え方は自分としては結構なじみがあるぞ……と考えていったら、あ、これはウィリアム・ブレイク(*2)だと。僕は二十歳前後のころ、ウィリアム・ブレイク、オルダス・ハクスリー(*3)、それからビートジェネレーションのアレン・ギンズバーク(*4)とかの考え方にすごくハマっていたんですね。彼らもものすごく禅の影響を受けているんですが、彼らの世界観や考え方が、僕の中では完全に定着しているんです。そこで、ウィリアム・ブレイク的な思想をもった登場人物を出したいなと。しかもそんな「時間が延びる」というような仙人みたいな思想を、若い女の子がもっていたら面白いなと思って。自分の死期が近いと信じ、時間密度が高まった時の「時間が延びる」感覚を追い求めて闘う、ストリートファイターの女の子という人物ができました。

*1:生活環境のあらゆる場所に情報通信環境が整っている特別地区
*2:18世紀イギリスの画家,詩人。聖書や神話を題材に独自の神秘的な世界観を構築し、絵と詩でとで表現した。「幻視者」の異名を持つ。
*3:ブレイクの影響を受けた19世紀イギリスの作家。著書に、ドラッグによる幻視体験をつづった「知の扉」ほか。
*4:1950年後半〜1960年前半にNYのアンダーグランドで生まれたビート文学の、代表的な詩人の一人。著書に「吠える」ほか

今回は、台本を書いているうちに、僕が好きな物や、やりたかったことがパズルのように合わさって、ずっと書きたかったウィリアム・ブレイク的な「死を見据えた上での無限、永遠」というのが、いい感じで書けたと思います。死を見据えて生きるって、ちょっと間違えると刹那的な考え方に思えるかもしれないけど、実は全然逆なんです。今を生きればいいじゃんっていうことではなく、もっともっと先にあるから今は見えてない、分からないどん詰まりの死というものを見据えて、そこから残り時間を考えてしっかり生きようという考え方。社会批判的なことをあまり語る気はないんですけど、現代社会では目の前から死がどんどん隠されていて、誰も自分が明日死ぬとは思ってない。でも明日死ぬかもしれないと覚悟した上で、明日死んでもいいくらい、毎日をちゃんと生きて大事にしようぜ、と。そこから生きることを始めないと、僕たちはいずれ大変な後悔するんじゃないだろうか。青臭いと言われても、それぐらいストレートなメッセージが言えたらいいなと、今回はそう思ってるんです。

【公演情報】

(社)日本劇団協議会主催 創作劇奨励公演
『表と裏と、その向こう』
企画・制作 イキウメ

[東京公演]

2008.7/2(水)〜6(日) 紀伊國屋ホール
・お問い合わせ=劇団 TEL.03-3358-2827
・開演時間=平日19:00、土・日曜13:00と18:00

[福岡公演]

2008.7/12(土)・13(日) 西鉄ホール
・お問い合わせ=劇場 TEL.092-734-1370
・開演時間=12日18:00、13日13:00

[大阪公演]

2008.7/18(金)〜20(日) HEP HALL
・お問い合わせ=キョードーチケットセンター TEL.06-7732-8888(10:00〜19:00)
・開演時間=18日19:00、19日13:00と18:00、20日13:00

【スタッフ】 作・演出=前川知大
【キャスト】 浜田信也 盛隆二 岩本幸子 森下創 緒方健児/西牟田恵 内田慈 安井順平

・チケット発売中
・全席指定3,500円/当日3,800円

前川知大 プロフィール

1974年生まれ、新潟県柏崎市出身。水木しげるの妖怪本との出会いから、魔術、心理学、民俗学などに興味を持つ。 大学卒業後、サラリーマンを経て、03年に「イキウメ」を旗揚げし、以降全作品の作・演出を手がける。「夢の世界が複数の人々によって共有されたら?」(『眠りのともだち』)、「人間の“概念”を採集する宇宙人がいたら?」(『散歩する侵略者』)といったSF風な発想を身近な人間模様に織り交ぜ、人間の「生死」「時間」「欲望」など普遍的なテーマを斬新な視点で問い直す作風が、近年注目を集めている。今年は、佐々木蔵之介と仲村トオルが共演したチーム申『抜け穴の会議室』の作・演出や、グリングの青木豪が演出した『ウラノス』の脚本を手がけ、劇団外でも活躍。07年12月には代表作を小説化した「散歩する侵略者」(メディアファクトリー)で、作家デビューも果たした。シアターガイドで書評エッセイ「オススメするかは別として」を連載中(7月2日発売号で最終回)。