プロレスラー・マッスル主宰「マッスル坂井 インタビュー」  - 特集ページ - 演劇ポータルサイト/シアターガイド
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プロレスラー・マッスル主催 マッスル坂井 インタビュー

演劇人はプロレスが好き。よく聞く話です。でも演劇のお客さんはどうなんだろう。相手の技を受けることから始まるプロレスは、技と魂のコミュニケーション。技と魂のやりとりを繰り返し、高揚し、観客を引き込んでいくわけです。そこには感情が見えるし、それぞれの考え方も伝わってくる。これって実は演劇にすごく近いでしょ? だから演劇人はプロレスが好き。だったら演劇ファンだってプロレスが好きになれるでしょ? なれ!(笑)。しかも昨今は、演劇的な“設定”を持ち込み、笑いを盛り込んだ内容にシフトしたエンターテインメント型のプロレスも多く出て来ています。その代表格が、「マッスル」なのです。
(取材・文=今井浩一)

「プロレスの向こう側行こうぜ」

プロレス雑誌の創刊号締め切りのために、記者が試合結果を先にノートに書き込むと、みなそのノートの内容通りに選手が敗れ、亡くなっていく……(05年10月 マッスルハウス)。

後楽園ホールは実は笑点の収録会場でもある。その日、実はマッスルと笑点のスケジュールがバッティング、しかも笑点の出演者全員が謎の死を遂げてしまったため急遽マッスル戦士たちが大喜利に挑戦することになり……(07年1月 マッスルハウス3)。

プロレス界は視聴率低迷。その打開策として、ミキティ、まおちゃん人気で話題のフィギュアスケート方式を導入。テーマ曲に合わせて試合を行い、それを採点することになるが……(07年5月 マッスルハウス4)。

いやあプロレスは奥が深い。プロレスが演劇を取り込んでしまったのだから。プロレスラーに演劇はできても、演劇人がプロレスをやったらただのごっこになってしまいます。だから、これはプロレスなのです。

「プロレスの向こう側行こうぜ」をキャッチフレーズにスタートしたマッスル。彼らがすごいのは公然と“脚本・演出”を持ち込んでしまったこと。ラストに流すタイトルロールに“脚本・演出”をクレジットしたり、実際に総合演出家という役回りが登場して選手たちを振り回すし、舞台裏まで見せた映像でリング上との人間関係や物語を際立たせているし、劇的シーンではスローモーションになり(観客もスローモーションで呼応するノリのよさ)、ストップモーションで心のつぶやきを聞かせたり、紙吹雪まで舞う。

下北沢のタウンホールで産声を上げ、すでに数回、格闘技の聖地・後楽園ホールにも進出。最近ではプロレス団体のなかでもここを満員にできるところは少なくなってきた。にも関わらず、「マッスル」は販売開始直後にチケットが完売するという人気ぶりだ。

当初、プロレス雑誌の編集者にファンは多かったものの、それがはっきりと記事化されることはなかった。そこに目をつけたのがシアターガイド。「こんな面白いものは演劇誌で紹介するしかない」と当時の編集長Iは語る(ま、私ですが)。暴走する私Iは日経エンターテイメントの期待される演劇人のコーナーにまで主宰のマッスル坂井を載せてしまった。ほかにもSPA!やらクイックジャパンやらが特集を組み始めた。現在では坂井は「HOT SPA!」で松尾スズキの連載枠を引き継いでいる(http://spa.fusosha.co.jp/hotspa/muscle/)ほどの注目されぶり。

坂井が見いだした総合演出家、鶴見亜門がぶった斬り

写真/マッスル坂井

マッスル坂井は、奇才ぞろいという噂の早稲田大学第二文学部に在籍、映画研究会に所属していた。現在はDDTプロレスに所属し、初めて会場でプロレスを見るお客さんにも分かるよう流れを見せる映像の編集も担当している。その坂井が団体内団体として旗揚げしたのが「マッスル」なのだ。

座組は、脚本・演出・出演の坂井を中心に、総合演出という役柄の鶴見亜門(双数姉妹・今林久弥)、おしゃべりマシンのアントーニオ本多(ナトリ本式など)、謎の中国人レスラー・趙雲子龍、昼間は保険会社の営業マンであるカポエラの達人・ペドロ高石、“舞台監督”男色ディーノ、そして映像会社の社員でいいように虐待されるメガネこと藤岡典一がおよそのレギュラーメンバー。ここに岩手県議会時代のザ・グレート・サスケ、闘うムービースター・AKIRA、日本一性格の悪い男と評される元三冠ヘビー級チャンピオン・鈴木みのるといったスター、素性が謎だらけのプロレスラーが絡んでくる。

マッスル坂井

僕は演劇に出会って、お芝居そのものも小劇場系劇団の取り組み、会場押さえから、チラシ作りからチケットの手売り、当日の仕事まで含めて自らの手でやっていることがプロレスのインディー団体でも有効なすごい手段だと思ったんですよね。こういうふうにやればプロレスも絶対うまくいくんじゃないかなって。興行の日だけ集まって、試合だけしてっていうんじゃなく、時間をかけてものを作りたくなったんですね。考え方が統一されたり、気持ちが一つになれるじゃないですか。これは面白いと思って、やってみたいなと。小さい団体だからこそ有効だと思ったんです。

プロレス界も今や団体が乱立状態。演劇界におけるプロデュースシステム化と同様の事態が起こっている。小劇場=インディーは生き残りにさまざまな策をめぐらせている。そんな中にあって、DDTや「マッスル」は独自の路線を確立しているというわけ。その「マッスル」が今のスタイルを確立するにいたるには、双数姉妹の今林久弥、プロレスラーとしても活躍しているアントーニオ本多という役者陣の投入が大きい。

マッスル坂井

今林さんとの出会いは大きいですね。プロレスラーでどんな口達者な人を集めても3行以上のせりふ言えないですよ(笑)。それにプロレス界ここが変だってことも、僕がふだんからこうしたらいいと思っていることを言ったら、周りから『四流レスラーが何言ってるんだ』って思われることも角が立たないで言えると思ったんですよね、業界の外の人ですし。しかもプロレス愛がありますし。また俳優イコールかっこいいというイメージからほど遠いのもいいですね。メガネかけてるし。今林さんが小栗旬みたいな風貌だったら受けなかったと思うんです。あまり忙しくなってほしくないですよね(笑)。

毎回毎回、井戸端会議のようにして不平不満を並び立てるレスラーの前に、総合演出の鶴見亜門が颯爽と現れて、その日の設定を提案すると、手のひらを返すように調子良くそれにのっかるレスラーたち。それを一話完結で送るのが、「マッスル」の基本的構図だ。鶴見亜門というキャラクターは、マッスル坂井が日ごろ思っていること、そして観客がツッコミを入れたい物事を代弁してくれる存在。それをズバズバ言ってくれるから痛快なのだ。会場人気は一番高い。実は双数姉妹の『ラバトリアル』で台本が書けない作・演出家の役を演じたのを見たマッスル坂井がそれをリングに持ち込んだのだそう。

鶴見亜門

一番人気というのも不思議ですね。僕はあくまでもファンですから。ファンとしてこんなのあったら面白いなってことをやっている感じですね。でも素のかっこうでプロレス観にいっても誰も気づいてくれませんからね。劇団の動員にはちょっぴりフィードバックされてますけどね。坂井に一言ですか? 台本がだんだん遅くなっていくんですよね、早くしてくれと。