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【対談】青年団若手自主企画『おいでおいでぷす』主演:松井周×作・演出:岩井秀人

ハイバイを主宰し、昨年から青年団演出部に所属している岩井秀人が、ギリシャ悲劇の傑作『オイディプス』に挑む。その名も『おいでおいでぷす』。対人関係のビミョーな違和感、人前でうまく立ち振る舞えない時の挙動など、おかしくもどこか身につまされる人間模様を執拗なまでに描くミニマル劇作・演出家の岩井が見せる新境地? と思いきや、コンセプトは「口語で古典」。主演は、サンプルを率い、劇作・演出家としても注目を集めている青年団の俳優・松井周だ。顔合わせは刺激的、企画は予想不能。どーなるのよ! ご両人!

「オイディプスの追い詰められっぷりは岩井君の世界に近い」(松井)

写真/松井周

―まず『おいでおいでぷす』の企画の起こりからお伺いしたいのですが、松井さんはいつごろオファーを受けたんですか?

• 松井 去年の9月くらいですかねぇ。それ以前から、岩井くんから「ハイバイに出ませんか」っていうメールは来てて。まあその時は、スケジュールの都合で出られなかったんですが。僕はけっこう前から岩井君の芝居を観てて、劇評にも書いてたんですよ。引きこもりの人ががんばって書いたっていう戯曲と芝居が異様におもしろくて。で、挨拶したら、実は同じ中学の後輩だったです。今も武蔵小金井に住んでるって聞いたんで、岩井君のあの芝居はすごく武蔵小金井っぽいのかなぁって。

―武蔵小金井っぽいってあるんですか(笑)

• 松井 ダサ〜いというか。23区内でもないし、あるいはもっと離れた、なんか田舎の良さとかそういうのも無い、すごく中途半端な場所なんですよ、本当。駅前にやたら大きい長崎屋と西友が並んでいて。

―(笑)

• 松井 だから、岩井君が芝居の中でちっちゃな世界を細かく描く感覚は「あ、分かる」と思っていて、ずっと興味を持ってました。

―岩井さんは、いつからこの企画を立てて、松井さんをキャスティングするっていうのはどの段階で決められたんですか?

• 岩井 どういう順序だったんだろう……。僕、青年団の演出部に入って1年目なんで、自主企画で公演を打たなくちゃいけなくて、「口語で古典」とかいう企画名だけを一応決めて、コンセプトありきでって勝手に考えてはいたんです。具体的なことで一番最初に決まったのが松井君。松井君のことを初めて知ったのは……『地下室』(05年/作・演出=松井周)の時だと思う。観に行って「わぁ!」って思って。あとは青年団の『ソウル市民(昭和望郷編)』(06年/作・演出=平田オリザ)の、古舘(寛治)さんとの不思議バトルのシーンが役者としてすごく面白くて。「うん、これはちょっと本当、1回なんかやってもらいたいなぁ」と思って、それで誘ったんですね。9月くらいに。だけど、そこから先は全く手をつけなかったんだよね、俺が(笑)。

• 松井 うん。そのあとに図書館で古典をいろいろ読んでるっていう話を聞くんですけど、「いや、まだ決まってないんだよね」という返事で。

• 岩井 全然決まらなくて、結局読んでもいない作品のタイトルになったからね。『おいでおいでぷす』って企画名みたいな感じだったんですよ。なんとなくイメージ的には。でもどう考えても『オイディプス』をやるみたいなタイトルですよね。それで、逃げらんなくなっちゃって……みたいなところはあります。

• 松井 (笑)

―公演チラシに「松井さんから聞いた『オイディプス』の話を基に作りました」というようなことが書かれていたので、ひょっとしたら原作を読んでないんじゃないかって思ったんですけど。

• 松井 あははは。

• 岩井 読んでないですね。チラっとは見たんですけど。

―チラっと(笑)?

• 岩井 はい。

• 松井 多分せりふが長いところは、飛ばしてるんだと思うんです。

―そういう読み方をした時に、岩井さんは『オイディプス』のどういうところをすくおうをしてるんですか? 

• 岩井 話の流れとか、あとはキモ? 奥さんがお母さんとか。彼(オイディプス)絡みのところだけで……悩んじゃうと何にも出来なくなる戯曲でしたよ。

• 松井 最終的に、岩井君から「キャンプの話になったから」って言われて、「な、何がキャンプなんだろう?」って。

写真/岩井秀人

―え!? キャンプ(笑)?

• 松井 ちょうどその話を聞いた時も『オイディプス』を読んでいて、「キャンプってどこかに出てきたっけなぁ?」と思って見直したけど、ないよなぁと(笑)。だけど、「たき火の周りでキャンプをしてる」って岩井君が言うから、どういうことかと思っていたわけです。まあ稽古している今では「ああ、こういうことなんだ」って分かるんですけど。

―岩井さん、その飛躍はどういう発想から生まれたんですか?

• 岩井 まず王様がいる国っていう背景をしっかり描かないと、人物がプライドを持つ必然性がなくなっちゃうという構造が原作にはあって、それをどういうふうに現代の人たちに当てはめようかなと(笑)。まあ規模を小さくして、村を舞台にするとか、それこそ宗教を持ち込むとか、そういうやり方もあるんですけど、「でも、もっと単純なのにしたいな」と思って、まあ、キャンプに来て、ちょっと意地で帰らなくなった人たちにしようと仕立てたんです。それと、「この人たちは、何してんだろう」と思って舞台を観ている観客に、話と背景を一緒に明らかにできてったらなって思っていて。

―たしかに、普通に『オイディプス』を上演すると、舞台となる土地、ギリシャ神話といった背景の知識がないと分かりづらいですよね。

• 岩井 ちゃんと内容を知る前に『オイディプス』をやるって決めちゃったから、今にして思えば「けっこう向いてないやつを選んだんだな」っていう気はするんですよねぇ。お母さんが嫁だったっていうのは、もう……(笑)

―ダメですよね。そこでもう現代劇としてはかなり厳しいモノがあります。

• 岩井 だから、そこはものすごいパワープレイです(笑)

• 松井 原作だと、国をどうするかっていうデカいことで苦悩しますけど、キャンプっていうちっちゃい世界にしたことで、その中の人たちもちっちゃいことで右往左往してるんで、そのミニマルぶりはやっぱり岩井君の世界だなと思います。だけど、「あぁ、『オイディプス』だ」ってちゃんと思えるところもあるんですよ。

―家族関係も難しいと思うんですけど、もう一つ、言われたとおりに展開が進む“予言”もあるじゃないですか。『オイディプス』ではテイレイシアスという予言者がでてきますが、そこはどうするんですか?

• 岩井 それはけっこううまくスライドできたと思ってるんですよね。キャンプなので、キャンプの名人みたいな人が出てきます。「俺、大体分かってるよ」みたいな感じで出てくる。

• 松井 その名人がちょっとテレビに出てたりしたっていうのを皆も知っていて、何となく従ってるという(笑)

―設定を置き換えたとはいえ、人物の役割といった構造的なことは原作にかなり忠実なんですか?

• 岩井 僕はけっこう忠実じゃないかなぁって思ってるんですよね。ただ、今の感覚としては、きっと王様が母さんとアレしてたっていうのも、国の人たちにとってはそんなにヒットしないことだと思うんですよ。「え〜?」とか言って終わりだと思うんですよね。「うわぁ、キモいねぇ」とか言って。

• 松井 (笑)

• 岩井 一方で、国の人は国の人で飢餓で苦しんでるし、今回の作品で言えば、キャンプはキャンプでご飯無いっていう問題を抱えてるんですよ。だから、王様、つまりキャンプのリーダーはそれも見なくちゃいけない。それで、リーダーは恋人から「どうもオカシイよ、私とあんたの関係は」みたいなことを言われて気になってるし、キャンプの方もおろそかにできないし、ということで忙しい(笑)。僕は、例えばオイディプスをどうやって王様らしく偉そうに見せるか、ということを考えると何も浮かばなくなっちゃう。いろいろとやらなきゃいけないことがある人が、社会的に見たら好きだって言っちゃいけない人に「好きだ」って言ってたとかで「えぇ〜?!」ってビックリしてる、というようなところが僕は見たい。それで、「王様なんだからあんたしっかりしなさいよ」とか言われて、「ああ、分かった。でも……」みたいな感じで気にしてる、っていうのが僕はすごく等身大だと思うんです。「あの人、最近大変だね」って言えるくらいの“大変さ”にしたいんですよ。そこまで引きずり下ろしたいっていうか。

• 松井 だいたい『オイディプス』自体も、オイディプスが勝手に追い詰められてくっていう部分はすごくあると思うんですね。王様であるオイディプスは、予言者が言う「(飢餓の元凶となっている)汚れたもの」を自分がちゃんと探すから安心しろと国民に約束するわけだけど、探していけば探していくほど「汚れたもの」が自分だっていうことに気づいていく。でもそれも、コロス(合唱隊)の人たち(国の長老)が別に気にしなかったら、うやむやにできたのに、オイディプスが勝手に一人で真実を、皮を剥ぎ取るように暴いちゃう。「ゴメン」くらいで済みそうなことを、延々と自分の目を潰すところまでいっちゃう。勝手に追い込まれる人を描いてるということで言えば、岩井君の世界とも近いのかもなって。