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庭劇団ペニノ『太陽と下着の見える町』特集

初日目前レポート 庭劇団ペニノ「太陽と下着の見える町」

今月5日の初日を目前に控えた庭劇団ペニノ。主宰タニノクロウが描き出す、現代のグロテスクな妄想絵本ともいうべき作品世界は、せりふの表層的な意味を超えて、観客の皮膚感覚に直接迫ってくるような鋭さをもつ。またペニノといえば、マンションの一室やオフィス街に建てた巨大テントなど、空間を生かした舞台美術も見どころのひとつ。今回はペニノ史上初となる巨大空間・体育館を使って、どんな世界を見せてくれるのか。その手掛りを探るべく、タニノに話を聞くとともに、美術仕込み中の劇場に潜入した。

取材・文=熊井玲(シアターガイド)

舞台美術

1) これが2階部分の骨組みとなる
2) 11:30ころの様子。体育館の約1/3が舞台になっていく

11月中旬の取材時、「今回は美術がすごくシンプルなんですよ」とタニノクロウは言っていたはずだ。しかし、美術仕込み日である12月1日、劇場となるにしすがも創造舎の体育館には20名近いスタッフが集まり、数人掛かりで大きな板を運んだり、天井まで届くほど高い台の上で作業したり……と全員がせわしなく働いていた。これからこの体育館に、2階建ての建物をつくるというのだ。

10:00に作業がスタートし、正午には2階部分の骨組みと、1階部分の床面の大部分が出来上がっていた。舞台監督の矢島健は、1階に敷き詰めた50枚近い平台のいくつかを足で蹴って、ズレが起きないかを確かめる。セットと同時進行で、照明クルーも作業を行っていた。舞台スペースの一番奥から客席へ向かって、数本のバトン(照明吊り)に順番にライトを設置する。作業が終わったバトンは、順番に天井に吊るし上げられていった。

12:30。作業の第1段階が終了。制作チームから声がかかり、まかないが振る舞われる。しばしの休息をとって、午後からまた作業再開だ。

インタビュー写真/タニノクロウ その1

舞台は、夢野久作の「ドグラマグラ」の作品世界を思わせる、乳白色の壁に囲まれた病院ふうの建物。その1階には4つの部屋があり、患者らしき男女が互いに噛み合ない会話を繰り広げている。2階には医者と看護婦らしき男女。彼らが語る、現実なのか妄想なのか分からない、さまざまなエピソードが断片的に描き出される。

この作品の構想は、実は早くからタニノの中にあったのだという。しかし、現役の精神科医として「自分としてはかなりのタブーを犯す、それなりに覚悟のいる作品」という想いもあり、いつどのような形で作品にするか、そのタイミングを計るうち、いつの間にか時間が経っていた。

「研修などで精神病院に行った時に見た風景が、今回の作品では元になっていて。彼らはまったく周りを気にせず、お互いに全然別の話をしながらそれぞれに生活している。何かになりきってる人とか、見えないものや人に話しかけている人とか、見た目もそのまま、言葉も垂れ流されてる状態で、その様子がひとつの町のように見えたというか、すごく演劇的だなと思ったんです。白い壁に囲まれた景色のきれいな場所で、朗読劇をやってるような風景。それに近いような形で、一人一人の語りにイメージが乗っかっていくような、そういう作品になればいいなと」

なるほど、その話を聞いて改めてセットを観てみると、小部屋が並ぶ1階は病室のようにも見えるが、見方によってはマンションの1フロアのようにも見えるし、はたまたマンガのコマ割りのようにも見えてくる。

「いろんなふうに見えればいいですよね。実は途中でセットプランをがらりと変えたんです。断片的なエピソードが効果的に見えるように、お客さんが遠くからテレビを見るような感じになればいいなと思ってます」

気になるのは「究極のパンチラ演劇」という、チラシのキャッチコピー。なんでパンチラ? パンチラ演劇って? まさか実際にそんなシーンもあるのですか?

「そういうシーンもかなりありますよ(笑)。ただそれ以外にも、“パンチラ”にはいろいろ意味があるんです。僕が精神病院で観た人たちは統合失調症の人が多かったんですけど、20代後半から30代前半が多くて、みんなずっと日の当たらないところにいるものですから、色が白くて細い。彼らは周囲をあまり気にせず生きていて、別に女性の下着が見えようが見えまいが、特に気にせず生きているんですよね。……という情景が僕の中でまずあって。あとは(パンチラシーンが)自分の作品の邪魔になればいいと思ってるんです。見えそうになった時って、集中力がそこにいってしまって急に話がきこえなくなったり、ブラックアウトした状態になりますよね。そこにこの作品の味わいがあって、“パンチラ”という状況には、半ば強制的にほかを遮断してしまうようなある種の視覚効果がある。それが、そもそも分断されている登場人物たちのエピソードを、さらに分断してくれるだろうと思うんです」

インタビュー写真/タニノクロウ その1

ところでタニノは以前、台本執筆時には上演する場所と同じ広さの場所を探すと言っていたが、今回はどこで書いていたのか。

「高いので毎日は行けなかったんですけど、帝国ホテルの1階ラウンジがちょうどいい大きさなんで、あそこで構想を練りましたね。体育館くらい広い場所って、ほかになかなかなくて(笑)」

趣きある帝国ホテルのラウンジで、パンチラ演劇が書かれていたとは……! その時のタニノの姿を思い浮かべると、なんとも笑いがこみ上げてくる。

また今回は、ペニノ常連の久保井研、マメ山田のほか、初参加のメンバーも非常に多く、出演者の顔ぶれが実に多彩だ。前述のとおり朗読劇的な部分もあり、会話というよりは、登場人物一人ひとりの独白に近い長ぜりふがあるため、役者たちが感じているプレッシャーも相当大きいのではないか。

―と、久保井が稽古前にふらっと、仕込み中の体育館に現れた。しばらく客席に座ってセットを眺めていたが、「思ったより2階が高いなあ……」とぽつり。その後、体育館をぐるりと歩きスタッフたちに声をかけたあと、稽古場へ向かっていった。

舞台美術

3) 各部屋の中に仕込まれる照明
4) 21:00ころの様子。このあとベッドが運び込まれた

20:00。作業開始から10時間後、そこにはもう白い頑丈そうな二階建ての建物が出来上がっていた。セットのあちこちにスタッフが入り込み、電気ドリルや金槌の音、ペンキの匂いをさせながら、細かな作業を行っていた。照明スタッフはセット内部の照明取り付けを、音響スタッフは客席後方で各自パソコンに向かって作業を行っている。午前中に比べると、何か大きなものが立ち上がるといった劇的な変化はないが、スタッフの誰もが手を休めることなく、黙々と作業を続ける。美術を手掛けた田中敏恵も姿を見せて、自ら脚立に上り柱や天井を触って確認したり、ペンキを塗ったりとほかのスタッフと一緒になって作業を行っていた。

21:30。1階の4つの部屋に、午前中につくっておいた簡素な木のベッドが運び込まれる。殺風景だった白い小部屋も、ベッドが置かれると急に人の生活空間に見えるから不思議だ。

21:40。「では今日は、ここまでで。ありがとうございました!」と舞台監督から声がかかり、その日の作業が終了。当初、仕込みは2日間を予定していたが、1日目の作業が思ったよりスムーズに進んだため、翌日はスケジュールを早めて、照明関係の作業に入るそうだ。

21:55。退館時間の22:00を目前に、体育館とは別の場所で稽古をしていたタニノが、セットの仕上がりを見に駆け足で体育館にやってきた。美術の田中もタニノの後に続いて中へ。二人はどんなやりとりをしているのかな? タニノはあのセットを見てなんて言ったんだろう――。気になってしばらく待ってみたが、中で打ち合わせが始まったらしく、二人はなかなか出てきそうになかった。

初日まであと数時間。タニノをはじめ、スタッフ、キャストたちそれぞれの闘いは、幕が上がる直前まで続けられる。その最終形がどうなるかは、ぜひ劇場で見て確かめたい。

タニノクロウ プロフィール

タニノ・クロウ 76年富山県出身。庭劇団ペニノの主宰、座付き劇作・演出家。2000年、昭和大学医学部在学中に同大学演劇部のメンバーと庭劇団ペニノを旗揚げ。以降、全作品の脚本・演出を手掛ける。『笑顔の砦』(07年)、『星影のJr.』(08年)が、2年連続で岸田國士戯曲賞最終候補にノミネートされる。09年はドイツの演劇祭に招聘され、『苛々する大人の絵本』を上演。ドイツの観客からも好評を得た。また近年は劇団外の活動として、イプセン作『野鴨』(07年)『ちっちゃなエイヨルフ』(09年)などの演出も手掛けている。

【公演情報】
『太陽と下着の見える町』

【スタッフ】 作・演出=タニノクロウ
【キャスト】 久保井研/山田伊久磨/五十嵐操/内田慈/笹野鈴々音/佐野陽一/森準人/間瀬英正/坂倉奈津子/大久保宏章/寺田ゆい/高橋ちづ ほか

2009.12/5(土)〜13(日) にしすがも創造舎

• チケット発売中
• 全席自由3,500円/学生3,000円/高校生以下1,000円(※要学生証)
• お問い合わせ=フェスティバル/トーキョー TEL.03-5961-5202