特集:劇団桟敷童子「黄金の猿」  - 特集ページ - 演劇ポータルサイト/シアターガイド
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タイトル画像:黄金の猿/劇団桟敷童子タイトル画像:作=サジキドウジ 演出=東憲司 美術=塵芥 公演期間=2008年11月21日(金)〜12月7日(日) 場所=ベニサン・ピット

その2 無数の丸太と本水と……―大型装置の舞台裏―

• 11月10日(月)/作業2日目

写真/舞台の模型

美術仕込み2日目。作業は朝9時から夜8時半まで。初日に搬入を一部終え、ロビーや劇場内には、工具や電ノコ、木材などが所狭しと置かれていた。その一番目立つところに、東手製の美術模型が。これで観る限り、高さもあるし、そうとう大掛かりな装置になりそうだ。どうなるんだろう?とわくわくしながら劇場内へ。

この日の作業は、水槽の枠組みをしっかりと作ること。そして、夕方に搬入される新たな丸太の置き場を確保すること。この時点で既に100本近い丸太が運び込まれていたが、さらに250本近くが搬入されるのだという。

劇場内では、ツナギを着た20名の劇団員が工具を片手に作業中。その指揮を執っているのが、赤い手袋をした東だ。劇団員によれば、赤い手袋の時は、東がかなりやる気になっている時なのだそう。大声で指示を出しながら、東は率先して作業を行う。時折顔を上げて全体を見回し、劇団員それぞれが各自、作業している様子を確認して、次の作業に移る。

重労働となる水槽部分を作っているのは男性陣。と思いきや、中には女性の劇団員も。皆ジャージやツナギを着て、埃除けのマスクやゴーグルをしているため、近くに行くまで誰が誰だか、性別もよく分からない。2階では女性劇団員が小道具や衣裳の準備を、厨房では食事担当が大鍋で夕飯の準備をしている。誰一人、ぶらぶらと遊んでいる人はいない。作業は黙々と、でも時に冗談も交えながら、和やかな空気の中で行なわれていた。

夕方5時。食事担当から声がかかって夕飯タイム。この日はすき焼き丼だ。作業場から上がってきた劇団員が、セルフサービスでご飯をよそい、すき焼きを乗せ、食べ始める。雑談を交わす食事の最中も、お互いの作業確認は忘れない。

写真/トラックでの搬入の様子

と、丸太を乗せたトラックが劇場前に到着した。時刻は6時、外はもう真っ暗だ。が。ここからこの日最大の山場、丸太の運び込みがスタートした。

トラックの荷台に上がり、丸太を1本ずつ取りあげる人、それをトラックの端で受け取る人、その丸太の両端を持って劇場内に運び込む人、丸太の泥を雑巾で拭く人、丸太を受け取り、長さによって置き場所を分ける人。長さ7〜8メートルの丸太を1本運び込むのに、何人もの手がかかる。それを250本分。

日が落ちて急に寒さを増したのか、開け放した搬入口から劇場内に冷たい風が吹き込む。劇団員たちは昼間と変わらず、基本的に黙々と、時に冗談は言っても文句一つ言うことなく自分の仕事を続けていた。

約45分後。運び込まれる丸太の長さが段々短いものになり、とうとう、極端に短い最後の1本が運び込まれた。これにて終了! 振り返って劇場内を見ると、立てかけられた丸太が大きな影をつくっていた。「こんなに運び込んだのか」という驚きと、「でもこの大量の丸太を、今度はどうやって組み立てるんだろう」というどきどき。作業はまだ始まったばかりだ!

• 11月15日(土)/作業7日目

写真/舞台制作の様子 その1

ロビーは相変わらずさまざまな工具や丸太でごった返しているものの、劇場内は5日前とはかなり様子を変えていた。まず驚くのは組み上げられた丸太の高さ。舞台面からキャットウォークまでのビル1階分の高さが、丸太でできたスロープでつながり、劇団員たちはここを自由に行き来しながら演技することになる。2日目に作り途中だった水槽部分は、かなり頑丈に仕上がっていて、あとはビニールシートを敷き、仕掛けの準備をするばかり。さまざまな計算を重ねて作り出されるこの水仕掛けと、約2000本の風車が今回最大の見どころ。どんなクライマックスになるのか、今からわくわくする。

ドリルや電ノコ片手に火花を散らしてトンカントンカンやっている者、組まれた丸太によじ上り、赤い布を結びつける者、小道具・衣裳、音響の作業をやっている者……。

時折顔を上げて劇場全体を見回す東の、明るい笑顔。模型どおりのイメージが、何倍ものスケールで目の前に出現しつつある。

写真/舞台制作の様子 その2

「誰にでもなにか得意なことがあるものなんです」と劇団員の外山(博美)さん。「運転ができる人、大工仕事が得意な人、裁縫が得意な人、料理が得意な人……それぞれができることをやればいい。演劇には、いろんな要素がつまってますから」

ちなみに、桟敷童子は毎公演、1週間から10日間ほど美術製作に時間を費やす。その間、いわゆる“稽古”をする時間はないので、劇団員はその間、役者というより裏方スタッフとして各作業にあたる。「実はこの時間が意外と大事なんです」と外山さんは言う。一度覚えたせりふや動きが、各人の中で寝かされ、自然となじんでくるのだそうだ。

本番まで1週間を切った。あと数日で美術は完成し、劇団員たちは再び役者の顔に戻っていく。自分たちが運び込み、裁断し、叩き、組み上げた舞台の上に、自分たちの脚で立つ。その自信が、舞台全体にいのちを吹き込み、彼らをより輝かせるのだろう。

取材・文=熊井玲(シアターガイド)