特集 多摩川アートライン 2008 パフォーマンスプログラム「多摩川劇場」[リポート『会話レス、電車音』] - 特集ページ - 演劇ポータルサイト/シアターガイド
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多摩川アートライン 2008 パフォーマンスプログラム「多摩川劇場」

山下残『会話レス、電車音』 中野成樹『欲望という名の電車をラップにしようとする男の害について』 柴幸男『川のある町に住んでいた』

山下残『会話レス、電車音』

振付・演出=山下残
出演=赤木はるか/岡田智代/河村篤則/辻田暁/山縣太一(五十音順)

山下残さんの作品『会話レス、電車音』は、撮影機材の不備により、動画を掲載することができなくなりました。山下さんをはじめ、撮影にご協力くださった関係者の方々、動画を楽しみにしてくださっていた皆様に心よりお詫び申し上げます。

代わりに、写真入りのレビューを掲載いたします。当日のパフォーマンスの様子を少しでも感じていただければ幸いです。

写真/駅ビル観覧車

発車直前の電車に、ふらふらと乗り込む5人。座席と座席の間、車両の中央にばらばらと陣取った彼らは、しばらくぼーっと外を眺めたり、腕を回したり、足をぶらぶらさせたり。電車が動き出しても、あまり様子は変わらない。はっきりしない、もやもやっとした動きを確かにしてはいるのだけれど、例えば腕を上げるとか、頭の上に手を乗せるとか、あまりに日常的な動きのため、それが振りなのか単なる仕草なのかが判然としない。

さらに電車の揺れが加わると、ダンサーたちは時に倒れそうになったり、(多分本人たちも意図してないであろう)不思議な体勢になることもあった。一体、これは即興なんだろうか、あるいは一人ひとり別の動きをあえてしているのだろうか……。

でも、しばらく観ていて気が付いた。一見するとばらばらの5人の動きが、確実にどこかでつながっているのだ。

例えば「しゃがむ」という動きを誰かがすると、少し遅れてほかの4人もばらばらといろいろな体勢でしゃがみ始める。誰かが「ジャンプする」なら、4人も軽く跳ねてみたり、飛ぶまねをしてみたり。その連鎖の様子は、まるで水面を揺らす波紋のようだ。誰かの、あるいは何かの動きを起点にして、ある動きがさーっとほかへ広がり、いつの間にかすっと消えていく。

写真/駅ビル観覧車

動きが消える瞬間の、ダンサーの身体がとてもきれいだ。一つの動きが身体から抜ける時、身体が一瞬「無」になる。だから、最初は単なる仕草に見えた動きも、ダンサーの身体をじっと観ていれば、“この身体を、確実にある動きが通った”と不思議と思えてくるのだ。その様子に見とれているうちに、気付くと電車は多摩川駅に到着。ダンサーたちは登場した時同様、はっきりと終わりを告げることなく、そのまま車両を降りていった。

……と、ダンサーたちがいなくなった車両の中央に、今までじっと客席に座っていた3歳くらいの女の子が飛び出し、笑顔で踊り出した。それを観て、思わず「あ」っと声が出た。楽しかったんだ、彼女は。そうそう、面白かったよね! 私も面白かった。車内に残っていた観客が皆、彼女に目を向けたままふと顔になる。一緒の車両に乗り合わせた他人同士が、気付くと顔を見合わせて笑っていた。

先に車両を降りてしまったダンサー5人にも、この「6人目のダンサー」の笑顔と踊りとを、ぜひ見せてあげたかった。

取材・文=熊井玲(シアターガイド)