特集:tpt RE:start@BnakART studioNYK Part2「稽古場リポート」 - 特集ページ - 演劇ポータルサイト/シアターガイド
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演出:トーマス・オリヴァー・ニーハウス インタビュー


▲会場から臨む横浜港の風景。夜はみなとみらいの夜景も楽しめる。

大きな鉄の扉、何本もの巨大な柱。むき出しのコンクリートに囲まれた大広間に、天井近くの格子窓から光が差し込む。廃墟化したバンケットルームのような不思議なムード。公演初日前日の夕刻、その一角に作られた客席に座って、俳優たちはもう1時間は続くダメ出しに耳を傾けていた。

「あのシーンで観客を見る、あれはすごくいいですね」「ここではもっと速く語り手に戻って。妻という役割からの切り替えをもう少しハッキリしてほしいです」。小さなメモ帳を手に指示を出しているのはこの舞台『醜い男』の演出家、トーマス・オリヴァー・ニ―ハウス。動きや視線の細かなブレを丹念に拾い上げ、方向性を示していく姿はまるで、本番に向けて「最後のネジ」を締めているかのようだ。繰り返し聞こえてくるのは「切り替えの速さ」という言葉。主役の「醜い男」をとりまく6人の登場人物を、3人の俳優が入退場もなくスイッチを切り替えるように演じていくという設定は、確かにスピード感やグルーブなしには成立せず、それだけに一挙手一投足に至るまでの集中力を要求する。



▲壁吊り下げられているのはカバン? いいえ、座布団です。

さらに、もともと「役」と「語り手(俳優)」、この二つの立場を行き来することをワークショップの中心課題にしてきた演出家は、単なる2役の演じ分け以上のものを俳優に求めてもいる。「現代の人々はもう自分の中に宗教的なものをもっていない。この戯曲も深い『内面』を示してはいない。だからあまり宗教的な雰囲気は持ち込みたくないんです」「このシーンはロマンティックになってしまう恐れがある。二人のうちどちらかがロマンティックになっても、もう一人は違う方がいい」。常に冷静な「他者の視線」の存在を匂わせる芝居、没入と客観の両立。刺激的で難易度の高い注文だが、演技や動きの確認では笑い声も出るほど、現場はリラックスしている。



▲リハーサルより。左から小谷真一、池下重大、武田優子、田村元

この日の夜。本番前の最後のリハーサルを見学した。鉄の引き戸をガラガラと開けて登場する4人の俳優たち。彼らが声を発した瞬間、思い出したことがあった。前回のインタビューでトーマスから出た「聴覚的な芝居にしたい」という言葉。ちょっとものを落としただけでも大きな物音が響くこの場所で、どのように話し、どのように聞くかは、とても難しい課題となる。時にはささやくように、時には残響を利用するかのように叫びながら、しゃべり続ける4人の俳優たち。「伝える」「聞く」というコミュニケーションのあり方を意識させつつ、顔の美醜をめぐる物語はやがて、現代社会におけるアイデンティティーの問題へと観客の思考を導く。聞けば声のトーンに関する演出は、数日前、この会場へ稽古の場を移してからつけられたものなのだという。この場所でなければ生まれなかったもの。だがそれも徐々に、この芝居に不可欠な要素になりつつあるようだ。


1時間ほどの芝居は終盤にかけてテンションを上げていく。セックスをめぐる口論の場面。客席の端に陣取ったトーマスは、メモ帳を手にしたまま、声を上げて笑っていた。

(取材・文=鈴木理映子)

公演情報

『醜い男』

2009.3/22(日) 〜 29(日) BankART Studio NYK ギャラリー3C

【スタッフ】 作=マリウス・フォン・マイエンブルク 演出=トーマス・オリヴァー・ニーハウス 翻訳=林立騎 セット=松岡泉 衣裳=原まさみ 音響=長野朋美
【キャスト】 池下重大/武田優子/田村元/小谷真一

・チケット発売中
・全席指定5,000円、学生3,000円(TPTのみ取扱い)
・お問い合わせ=TPT(シアタープロジェクト・東京) TEL.03-3635-6355