シアターナインス『シェイクスピア・ソナタ』公開舞台稽古 - 2007年8月 - 演劇ニュース - 演劇ポータルサイト/シアターガイド
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写真/緒川たまき(左)と松本幸四郎
▲緒川たまき(左)と松本幸四郎
写真/左から長谷川博己、豊原功補、幸四郎。奥は高橋克実。 写真/会見より。前列左から伊藤蘭、幸四郎、緒川。後列左から岩松了、豊原、高橋、松本紀保、長谷川。

▲左から長谷川博己、豊原功補、幸四郎。奥は高橋克実。

▲会見より。前列左から伊藤蘭、幸四郎、緒川。後列左から岩松了、豊原、高橋、松本紀保、長谷川。
 新しい現代劇の創造"を目指して旗揚げされ、今年活動10周年を迎えた松本幸四郎率いるシアターナインスの新作『シェイクスピア・ソナタ』が開幕した。初日を控えた29日夜、PARCO劇場にキャストが勢ぞろいし、公演への意気込みを語った後、最後の通し稽古に臨んだ。

「シェイクスピアの四大悲劇を演じた男が5つ目の悲劇として臨むのは何か」

 それが、『ハムレット』(72年)、『リア王』(75年)、『オセロー』(94年)、『マクベス』(96年)の四大悲劇すべてに主演している松本幸四郎自身が、シアターナインス10周年に据えたテーマだった。その"答え"を託されたのは、劇作家・演出家の岩松了。01年の『夏ホテル』以来のシアターナインスへの参加となる岩松は、「次々と事件が起こり、人々が運命に翻弄される世界」というシェイクスピア戯曲の世界と対比して、日常生活は「もっと起伏が小さいもの」と語る。そこで導き出した岩松流の"答え"は、「シェイクスピアの世界」と「日常生活」相互から果たされる"復讐劇"というユニークなものだった。
 座長・沢村時充(幸四郎)率いる旅公演一座が毎年、シェイクスピアの四大悲劇を上演しに訪れる、能登の造り酒屋の庭。別棟二階からその庭を見込む楽屋で、舞台を降りた役者たちの"第5の悲劇"が繰り広げられる。衣裳を着け、衣裳を脱ぐ、劇世界と日常が浸食し合う楽屋という空間。一座のパトロンでもある酒造会社会長の娘であった前妻の死後、半年も経たぬうちに一座の女優と結婚してしまった時充の葛藤をはじめ、情緒不安定な新妻・美鈴(緒川たまき)の苦悩や、役者として投げやりな態度が目立つ時充の息子・美介(長谷川博己)の苛立ちといった、登場人物それぞれの複雑な感情、そして人間関係がゆっくりと浮き彫りになっていく。すべてを語り切らないせりふが、かえって役者の表情や仕草ひとつひとつに陰影を与える様は岩松作品ならではだ。

 時充の先妻の妹・菱川夢子(伊藤蘭)やその夫で酒造会社専務の友彦(高橋克実)、一座の役者である二ツ木(豊原功補)、横山(松本紀保)、山田(岩松)それぞれの描き分けも細かく、「日本のチェーホフ」と呼ばれる岩松の筆致が冴える。さらに、本作では時充らの日常の姿が四大悲劇の登場人物たちとところどころで重なり合い、引用されるシェイクスピア悲劇の名ぜりふは原作とは異なる文脈で新たな輝きと暗さを放つ。

 幸四郎は「チェーホフが見たシェイクスピア」と本作を評した。事件にも運命にも翻弄されない"第5の悲劇"は、静かにじわじわと観る者の心を揺さぶる異色の仕上がりとなっていた。