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2016/10/15
吉田鋼太郎が「彩の国シェイクスピア・シリーズ」の2代目芸術監督に就任
▲吉田鋼太郎
▲ 吉田鋼太郎
吉田鋼太郎が、彩の国さいたま芸術劇場の「彩の国シェイクスピア・シリーズ」の2代目芸術監督に就任。その記者会見が、15日に都内で行われた。
日本の公共劇場では初となる、シェイクスピア戯曲全37作品を上演する「彩の国シェイクスピア・シリーズ」。5月に死去した蜷川幸雄さんが手掛け、1998年の第1弾『ロミオとジュリエット』からのスタート以来、これまでに32作品を上演し、延べ34万人を超える観客を動員してきた。
このたび、第13弾『タイタス・アンドロニカス』に主演して以降、シリーズ12作品に出演(うち主演4作品)し、蜷川さんから厚い信頼を得てきた吉田が、後任としてシリーズの芸術監督を担う。
埼玉県芸術文化振興財団理事長・竹内文則は、「“蜷川レガシー”を受け継いで世界に発信する第一歩を歩み始める。蜷川さんが残してくれた財産とも言えるシリーズの完全上演に向けて、体制が整いました」とコメント。吉田の就任への経緯として「蜷川さんが亡くなる1カ月くらい前に“鋼太郎が役者の面倒を見てくれるのも含めて、残りをやってくれたら本当に安心なんだがなあ”と語っていた」と明かし、9月20日に行われたシェイクスピア委員会にて今回の決定に至ったと報告した。
また、竹内は「蜷川さんは全37作品が完了した暁には『テンペスト』をやろうと考えていました。主人公プロスペローの最後のセリフで人生に関わった人びとへの感謝の言葉があるのですが、それは蜷川さんにとって演劇に関わった人びとへの言葉であり、その役は吉田鋼太郎しかないと話していた」と吉田の存在の大きさを感じさせるエピソードを披露した。
吉田は「私のために来ていただいてありがとうございます。と、言いたいところですが、やはりこんなにもたくさんの方に来ていただけるのは、蜷川さんのお力だとあらためて感じています。蜷川さんの跡継ぎとして座らせてもらうと、逆に蜷川さんがいないという、喪失感を強く感じます。蜷川さんが自分にやってもらいたいと言ってもらったのであれば、ちゃんと遺志を受け継ぎたい」とあいさつした。
蜷川さんとの出会いを吉田は「22歳で『下谷万年町物語』のオーディションを受けました。渡辺謙さんが主演になって、自分は群舞をする約100人のオカマの一人になったのですが、オカマをどう演じたらいいか分からないし踊りも分からないしで、テキトーにやっていたら蜷川さんに“そこのお前! オカマで踊れ!”と怒鳴られて。それで嫌になりまして、その日限りで稽古に行かなくなりました(笑)」と振り返った。「それ以来、もう一生蜷川さんに会うことはないだろうと思って俳優人生を生きていたら、こういうことになっているのは本当に不思議だなと思います」と感慨深い表情を見せた。
数々の作品で重要な役どころを果たしてきた吉田だが、カンパニーの若手演技指導係も担ってきたという。「最初は『お気に召すまま』で、小栗旬、成宮寛貴は、当時セリフがどうにもならないからと面倒を見てくれと言われました。そこでの二人の成長があって、若手指導を任されるようなり、それが今日までにつながってきたのかなと思います」と回想した。
国内外から高い評価を受け“世界のニナガワ”と称されるほどの世界観を受け継ぐにあたっては「蜷川さんの“血”が僕にも流れている」と力強い言葉で応えた。「蜷川さんの作品には、素晴らしいビジュアル、胸がワクワクするような演出がありますが、シェイクスピアをやる限りは、きちんと受け継がないといけないと思っているのは“言葉”。蜷川さんが全日程稽古に参加できた通称“仏壇マクベス”(『NINAGAWA・マクベス』)でご一緒した時も、セットや演出が出来上がっても、俳優が言葉を喋らなければ、すべてが台無しになると。まず、シェイクスピアのセリフは朗唱をしないといけない。次はその朗唱に血と肉を与えて、会話にしないといけない。そこで壁が高くなり、ここで脱落する俳優が多い。これを蜷川さんは危惧してらして、晩年まで大事にしてきた。それを目の当たりにしてきたので、それは受け継ぎたい」と熱弁。そして、「蜷川さんはシェイクスピアは芸能だと断言してきたので、その遺志を受け継いで、蜷川さんの血と僕の血を融合させて演出できれば」と続けた。
また、竹内の言葉を受けて「蜷川さんは誰かに後を継がせるとか、やり直すとかは考えないだろうと思っていたので、すごく意外でした」と心境を述べた。「亡くなる前日に藤原竜也と一緒に見舞いに行った時は、手振りとか目を見開いたりして応えてくれたのですが、もう少し早く会えたら」と残念そうな様子をのぞかせたが「でも、そういうことを僕に直接おっしゃらない方だと思います」と笑った。
今後上演される5作品については「残りは蜷川さんがやりたくないものばかり(会場笑)」と笑わせたが、「それが逆に燃える。シェイクスピアをやってきた人間にはやりたいことがいっぱいありますので、蜷川さんならこうするだろうな、ということに俺がこうしたいなということをプラスし、混ぜ合わせながら新しいものがつくれたら」と意欲的だ。
「後継者となった理由をどう考える?」という質問には吉田は「蜷川さんとは気が合うんですね」と一言。「『グリークス』で自分の稽古の順番が回るまでにいろいろな人が生贄にされ、怒鳴り散らされてきて(笑)、自分の番をなんとかやり終えた時に、蜷川さんは“何やってもいいから好きにやってくれ”“僕が君を見ているから”と言ってくれて、その時に何かが通じ合った気がしました」と蜷川さんからの受けた言葉を思い出していた。
さらに「ここ5年くらいは自由にやらせてもらって評価してくれて、“シェイクスピアは鋼太郎がいればなんでもできるな”とおっしゃってもくれた。僕を抜てきしてくれて、ここまで引き上げてくれて、師匠・恩師以上に父のように思っています。その気持は蜷川さんには伝わっていたかもしれません。もちろん面と向かっては恥ずかしくて言えませんが(笑)」と笑顔を見せた。
第33弾は吉田の演出・主演による『アテネのタイモン』で、2017年12月に上演予定。なお、劇場自体の芸術監督については後任は決まっていない。
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